著名人・専門家コラム
2022.10.18
LGBTペアのライフプランを考える【FPコラム】
2015年11月に渋谷区が同性のパートナーシップに対する証明書発行を開始してから、保険会社がLGBTペアに対しての保険金支給を開始するなど、時代が大きく進んでいます。専門家のFPとして考えるべきことは、この過渡期のなかでLGBTのペアからライフプランの相談があったとき、ポイントとリスクをどのように伝えていくかです。
LGBTペアがライフプランを考えるときに気をつけること
生命保険ではペアに対する保険金受取なども整備されてきましたが、ライフプラン全体で考えたとき、まだリスクは残っています。その顕在化と、取るべき対策を考えていきましょう。
第3号被保険者になれない
民間の生命保険は渋谷区のパートナーシップ条例から追随した流れにより、保険会社によりますが受取人整備が整ってきています。変わらず遅れているのが公的保障です。LGBTペアにおいては民法上の結婚ができないことで対象化が進まないことが問題視されています。
実際のライフプランに落とし込んでリスクを顕在化させていきます。
まず、LGBTペアは第3号被保険者になれません。第3号とは会社員や公務員の第2号被保険者、健康保険制度では組合・協会健康保険に加入している配偶者がいるときに、結婚している相手が保険料負担なく同等の保障を受けられる制度です。昭和の頃の「父親は仕事へ、母親は家庭へ」にもとづく公的制度とされています。男女間の夫婦においても共働きが一般化するなか、既に時代遅れとの指摘も根強い制度です。
遺族年金と、民間の終身保険を活用するときの保険料負担の違い
このリスクがより顕著に現れるのが遺族年金制度です。突然の病気やケガでパートナーにもしものことがあったとき、遺族年金制度の対象になります(実際の給付には年齢等の諸条件があります)。LGBTペアは婚姻関係でないことから、遺族年金制度が適用されません。補完的な役割として民間の終身保険がありますが、遺族年金プラスアルファで終身保険を考えるのと、終身保険のみでもしもの保障を全額準備するのでは、保険料負担が大きく異なります。少なくとも男女感で子どもがいないときに受けられる保障は、LGBTペアでも同等に対象とすべきでしょう。婚姻関係の証明の代わりとしては、自治体の証明制度が活用できます。
まとめると、LGBTペアには片方が何かしらの事情で働けなくなったときに、ペアが扶養するという考え方が適用できません。元気に共働き前提!のライフプランを考えなくてはなりません。遺族年金という特別な事情に至らなくても、配偶者控除の制度など所得税の扶養対象にできないのもこの考え方に属する大きな弊害です。日本においては、確固たる社会保障制度のなかで国が発展している前提があるため、性別によって差が生まれる状況は避けなければならないでしょう。筆者の個人的感覚ですが、最近の国政選挙を見るとこのような状況に目を向ける政党も評価を得てきているため、具体的な議論になることを早急に望みたいものです。それまでは専門家が中心となり、リスクをお伝えしていくことが大切です。
相続におけるリスク
もうひとつ懸念すべきポイントが相続です。相続は生前に獲得した資産を亡くなったときに配偶者や子世代、自分の親(配偶者の親は含みません。専門用語で直系尊属といいます)に引き継ぐ制度です。高齢化社会の到来で2015年前後から相続の諸問題が以前よりも注目されるようになっています。
相続も婚姻制度を前提としているため、LGBTペアは対象となりません。資産の受取人として認められないばかりではなく、家族構成によって設定される資産の法定配分(法定相続人といいます)にも含まれていないという問題があります。
パートナーに資産を相続させる方法はあるが問題も
ではLGBTペアの場合、パートナーに資産を相続させる方法はないのでしょうか。ここで活用できるのが「公的遺言」です。相続をする先として最も優先されるのは、生前に「この人に資産を承継したいです」という資産所有者(被相続推定人)の気持ちです。死後に相続先を口頭で告げることはできないので、その手段として生前に「公的遺言を書いておく」ことが必要になります。よくサスペンスドラマで遺言が見つかり、「遺言では〇〇に資産を!」というあの映像です。ドラマではトラブルの火種として描かれますが、本来の公的遺言制度は被相続人の意思を明確化する、トラブル防止の手段です。
もちろん、遺言でLGBTペアのパートナーを資産承継先とすることは可能です。上限があるわけではないので、100%承継とすれば実体上の相続となるでしょう。ただ気をつけておきたいのは、本来(法律上)の相続で対象となる直系尊属などから「自分たちにも資産の一部が貰えるはずだ」という訴えが起こる可能性があります。専門用語でこの権利を「遺留分減殺請求権」といいます。
パートナーに相続を希望する場合は、あらかじめ法定相続人となる人たちにも話をして、減殺請求のリスクを削っておきましょう。本当に減殺請求されないかは死後の話なので100%ではないですが、根回しをしているとしていないとではリスクは確実に異なります。それらの対策も含めて、信頼するペアとのライフプランを整備していきましょう。
WRITER’S PROFILE
株式会社FP-MYS 代表取締役 工藤崇
1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。